事業停止は突然に、回れ回れ回れメリーゴーランド
「人生はメリーゴーランド」とはよく言ったもので。
上げては落とすの繰り返しだったりします。人生って。
まずね、私の仕事は塾とか予備校とかで現代文・古文・漢文・小論文を教えることだったんですけど。
20年以上やってましたかね。
「ぞぉ・なむ・やぁ・かぁ 連体形! はいっ!
(生徒唱和) ぞぉ・なむ・やぁ・かぁ 連体形!
覚えてよー? 復習してよー?
いつやるの!?
…って、別にいつでもいいんですけど、来週までには必ず暗記ー!
はい、今日はここまでー。
係り結び途中になっちゃったけど、時間きたからここまでー」
…みたいな(※一例)。
予備校でマイク持った一斉授業から、マンツーマンの個別指導まで。
職場を替えながら20年以上続けてきて、古文教えすぎたせいか、若い時から風貌にちょっと枯れた趣がありました。
そういった、古代な雰囲気を醸し出していたためでしょうか。
結婚もすることなく。
ラ行変格活用とか教えてね。
今、平成なんだけど、私の周りだけちょっと平安時代かな…っていう。
それぐらい、平安に片足突っ込むぐらい頑張っていた国語指導の仕事だったのですが。
15年ほど教えていた勤務先の塾が、この春 突然 倒産いたしました。
3月31日まで、普通に働いていたのです。
いつもどおり古文とかを教えて、「お疲れ様ですー」なんつって、塾長も「お疲れ様です」って。確かに言ってたと思います。割と普通な感じです。平常運転です。
それが。
翌日、4月1日。
この日も出勤予定だったので、自宅で準備をしておりましたら。
郵便屋さんが来たんですよね。速達持って。
勤務先からの速達。
いやいやいや、今から職場行くじゃん。塾行くじゃん。
言いたいことがあるなら直接言えばいいじゃん。何で手紙?しかもなんで速達??
けれど。
私もそこは国語講師の端くれです。
手紙開けなくても、事前になんとなく分かっちゃった…ていうか、文章見なくても行間読めたっていうか。
開けてみると、果たして…
事業停止のお知らせ
と、書いてありました。
エイプリルフールかな、と。
一瞬思いましたけど。
私もそこはそれ、国語講師の端くれ。
現代文では「文章に書いてあることがすべて」なわけです。
「事業停止」って書いてあったら事業停止なんです。それ以上でも以下でもない。
本文中に書いてあることが正解なんです。ここ、ノート書いといて。
…でも、一応答え合わせしとこうと思って塾に電話かけてみたんですけど。
誰も出ません。
やはりね。「事業停止」って書いてあったしね。
念のため、もう一回見直ししておこうと思って、直接教室にも行ってみましたが。
ドア閉まってました。
一目見て、「開いてない」ってわかる閉まり方でした。
当然というべきかね。何しろ事業が停止してるんですから。
今日、授業5時間あったはずなんスけど。
どうすれば??
真面目な国語講師だった私は塾の決まりを忠実に守り、生徒との個人的なやり取りは一切していませんでした。誰一人として連絡先がわからない。
収入源と大事な生徒、一気に何もかもなくして、この先どう生きてゆけと。
これが平安時代なら、特に問題ないでしょう。
中流貴族の娘とかなら、手習いしてね、歌とか詠んでね、なんだったら宮仕えしてもいい。
死んじゃうようなことはない。
でも今は、平成です。
なんの因果か時代は平成。
いつやるか、今でしょ!?
今すぐなんらかの行動を起こさないと、早晩 路頭に迷います。
とりあえず、持ってたiPadで転職サイトに登録し、塾の近所に住んでいる「昔の講師仲間」にケータイで連絡を取ってみました。現代人らしい行動です。
すると、まさにその日「昔の塾仲間で集まってるから、おいでよー」ってなことで。
仕事行かずに友人宅へ向かうこととなったのでした。
【つづく】